ピアノデビュー

実母はいつも 「子供三人もいるんやから一人ぐらいはピアノをしてほしいわね」と口癖のように私に言っていた。「 ピアノの発表会に出たら、おばあちゃんが好きな物なんでも買ってあげるよ」という口車に乗せられて、その昔次男が幼稚園の時舞台で”ちゅーりっぷ”なるものを弾いてきっちり怪獣のおもちゃをゲットしたこともあったが、その一度だけで実母の夢は無残にもやぶられた。

 

そんな折、毎年三男の中学校で合唱コンクールがあった、それはクラスで一人のピアノ伴奏で生徒達が歌と言うものだ。もちろん校内コンクールなので、先生が審査員となり、歌の上手さは別にして協調性や歌にかける意気込みなるものを評価する。また保護者の見学もOKで、長男の時からずっと私は鑑賞していた。 長男も次男も三男も歌のメンバーとしてクラス参加していた。

 

昨年合唱コンクールの後 「歌の参加も良いけど、やっぱりピアノが映えるよな~ 歌は十羽一からげ口パクでもわからん。男の子がピアノを弾いたらますますカッコエーぞ~」などと率直な私の感想を述べた。「 そやな、来年はやるわ(弾くわ)教えてや」 これが三男の回答であった。

 

今年も暑い夏休み前のある日、学校から帰宅した三男がポツリと 「今回ピアノ弾くことになったで」 と言う。

 

「 えっ!ピアノ弾くん!?」私以上に 冒頭の祖母が喜んだことは言うまでもない。

 

それから音階の仕組みや拍子とリズム等を教えると、息子のピアノ練習が開始した。

さすがに中学三年生になると頭の理解は早く、仕組みがわかると読譜もできるようであったが、難点が一つ、今までピアノを弾いたことが無い息子の手首は硬く、見ていて合理的とは言いがたい指の使い方をしている。まったくの付け焼刃なんで、難しいことは要求せず、椅子の高さや鍵盤との距離の取り方、又ペダル(足で踏んで音を残響させる)の踏み方等を教えて曲練習に突入した。

 

夏休みは受験生であるにもかかわらず、ピアノ練習に明け暮れ とうとう暗譜で弾けるようになった。二学期に入り、コンクールも目の前に迫り音楽の授業でも練習するようになり、ピアノのピの字も言ったことが無かった息子が弾いたため、クラスのみんなはどよめきびっくりしたことは言うまでもない。

 

しかしそんなどよめきよりも、「自分の演奏でクラスのみんなが歌ってくれている」 そんな喜びの方が勝っていたようだ。

 

そんなコンクールがこの週末に開催される。もちろん祖母も見に来ることは言うまでもないが、「経験が無くても本人のやる気があれば何でも出切る。舞台の上でピアノを弾く息子を見る喜び」 はピアノ講師としてまた母として至福の喜びに違いないと今からワクワクしている。

 

当人の追い込みはすごい。 「 がんばってるな~!ドンドン上手くなってるやん」 と言うと

「あったりまえやん~だっておばあちゃんがお小遣いくれるって言うたもん」

 

「??????」