ビックバンド

もしもしマサダさんの携帯ですか?」と掛かってきた電話。「せ・せんせいですか?ご無沙汰しています。その節は色々とお世話になりました」 と思わず受話器 を握り締めて頭をぺこぺこしてしてった。

かれこれ7・8年前。 私はビッグバンドに加入していた。

演奏会なるものにも出演したが、 なにせグレードの高いバンドでアマチュアとは思えず、私はこのバンドでかなり痛い目をした。

曲は知らない・・リズムが解らない・・・・おまけにどこを弾いているのか わからない・・・・そんな体験を練習の中で何度もした。

もちろんそのたび音楽は中断し、みんなにも迷惑を掛けた。ソロでピアノしか弾いたことがなかった私は、この編成15・6名のなかで リズム楽器としてのピアノの役割に大いに戸惑った。

初めて全員に渡された楽譜で、みなすぐに演奏する。

事前練習など何もなく初見という力不足を私は認識することになった。 おまけにコードのみが書かれている楽譜は、2段で音符が書かれているものを 弾くことしかできなかった私は、小節を目で追うのが必死で演奏どころでは なかった。

 

そんな中「次までにしっかり練習してくるように」とその道50年の先生から叱咤されることが多かった。また無限にある曲の中で、次までに練習した曲は2度と演奏する機会が ないこともあり、 そうして片道45分掛けて行っていたこのバンドはいつしか私には重荷になり、1年で辞めてしまった。

 

あれから実に数年ぶりにかかってきた御大からの電話で私は あの時の間違いを指摘されるのでは??とドキドキしたことを今でも覚えている。「うちのバンドのOB達でもう1つバンドを作ろうと思う。 ピアノがいないんでよかったら手伝ってくれるか? 45周年記念に5月に演奏会をしようと思う。練習場は変わってないのでとりあえず1回のぞきにお いで」 そんな内容であった。

全く知らない新しいメンバー。 それも退職した人や、年配ばかりで編成されたバンドにかなり戸惑ってしまった。しかしまあ、とりあえず5月の演奏会のお手伝いということで私はまた片道45分を 掛けることになった。

そうして復活してやりだしたビッグバンド。かつて挫折した曲がわからないということも少なく、リズムや初見に戸惑うことも随分少なくなった。

コードのみが書かれている譜面は、反対に手が抜けるなと思ったり前の経験はしっか私に根付いていると確信した。また今は誰がソロを演奏していて、この人が演奏するには自分はどのようなバッキングをしたら演奏しやすいかな等当時では考えも及ばなかったこともわかるようになった。

 

そうこうしてこのバンドでの演奏会は5月どころかもう5回もステージに立っている。そう先生からの電話があってからすでに3年目に入ろうとしている。

 

きっとやりがいというものを感じているからだと思う。